目の前に見える「浮遊物」
目の前を小さな虫が飛んでいるように見える症状を「飛蚊症」といいます。多くの場合、加齢などによって起こるもので心配ありませんが、中には目の病気が原因となっていることもあります。「飛蚊症」について、山形大学医学部の眼科学講座で講師を務める西塚弘一さん(医学博士)のお話です。
「硝子体」の液化現象
眼球は、約24ミリほどの球状になっています。カメラのレンズに例えられる「水晶体」とフィルムに例えられる「網膜」の間は、透明でゲル状の「硝子体」で満たされています。
この「硝子体」は、99%以上が水分で、わずかにコラーゲン繊維とヒアルロン酸が含まれています。
加齢やストレスによって「硝子体」が劣化すると、繊維組織が離れ、行き場を失った水の塊が硝子体の中に浮いてしまいます。これを「液化」といいます。
こうして、硝子体の中で不均一になると、コラーゲン繊維が寄り集まって束になり、その影が、網膜に映り浮遊物として見えるのです。これが「飛蚊症」です。
見える形は人によって違い、糸くずのようだったり、リング状だったり、点のようだったりします。晴天時や白い壁などを見た時など、背景が明るい時に自覚されやすいようです。
違和感を覚えたら専門医を受診
網膜はく離
重大な疾病の可能性も
「飛蚊症」とは病名ではなく、あくまでも症状の一つです。その原因によって以下の二つに分けることができます。
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●生理的飛蚊症
硝子体の老化に伴って起こる「飛蚊症」で、生理的な現象です。
先ほど述べた通り、年齢が進むと硝子体が液化し、硝子体の中に空洞ができます。
それがさらに進行すると、眼球の内壁である網膜から硝子体がはがれ「後部硝子体はく離」という状態になります。
通常、50歳代以降から増えてくるのですが、目の奥行きが長い強度の近視の人は、「後部硝子体はく離」が早期に起こりやすく、若いうちから「飛蚊症」を訴えることもあります。
「後部硝子体はく離」自体は病気ではありませんので、このタイプの「飛蚊症」であれば治療の必要はありません。
ただし、次に述べるような「網膜裂孔」「網膜はく離」を引き起こす可能性もあるので注意は必要です。
●病的飛蚊症
重大な目の病気に伴って起こる一症状です。以下のような病気の可能性があります。
①網膜裂孔・網膜はく離
「後部硝子体はく離」によって網膜にけん引がかかり、網膜に穴が開くことがあります。これを「網膜裂孔」といいます。さらに病態が進み「網膜裂孔」から液化した硝子体が網膜下に侵入し、網膜が眼底から離れた状態が裂孔原性の「網膜はく離」です。
いずれも、突然「飛蚊症」になったり、黒い点の見える数が急激に増えたりといった「飛蚊症」の症状が増悪します。
また、「網膜はく離」では「光視症」といって、閃光のようなものが見えることがあります。
「網膜はく離」が進行すると、視野が狭くなったり、視力が低下したりします。網膜には痛覚がないので痛みを感じることはなく、病気の程度によっては無症状の場合もあります。「網膜はく離」は放っておくと失明につながる危険性が高い病気です。
②硝子体出血
糖尿病や高血圧、外傷、網膜裂孔などによって硝子体の中で出血すると、特に軽度の場合「飛蚊症」を感じることがあります。出血が続くと、霧がかかったように見えるようになります。
出血が少なければ、自然治癒することもありますが、原因疾患によっては手術治療が必要となることがあります。
③ぶどう膜炎
「虹彩・毛様体・脈絡膜」の三つの部分からなる「ぶどう膜」に、細菌やウイルスが入るなどして炎症が起きると「飛蚊症」を感じることがあります。
炎症がひどくなると、症状は強くなり、視力が低下します。「ぶどう膜炎」の場合、眼痛や充血を伴うことが多いです。
原因疾患の検査と、炎症を抑えるために、内服薬や点眼薬を用いて治療します。
網膜はく離」の手術法
先ほど述べた通り、「後部硝子体はく離」自体は病気ではありません。しかし、しばらくしてから「網膜裂孔」や「網膜はく離」に進む場合もあります。ここでは、その場合の治療法について解説します。
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①硝子体手術
「網膜裂孔」「網膜はく離」の原因となった「硝子体」を切除してしまう方法です。
眼球内の「硝子体」を切除し、眼球内の液体を空気に置き換えながら網膜を元の状態に戻します。手術直後は、一般的にうつぶせの状態を保つ必要があり、1~2週間の術後安静期間を要します。
裂孔が複数ある場合や硝子体出血を伴う時に行われることが多い手術です。また、この方法では白内障手術を併用することがあります。
②強膜バックリング手術
「網膜はく離」の原因となっている「網膜裂孔」のある部位の眼球の外側に、シリコンバックルを縫い付け、眼球を内側にへこませて、硝子体のけん引を解除し「網膜はく離」を治します。
以前から行われている術式で、眼球内に触れない分、侵襲は少ないといえます。また、硝子体手術と違い、早期離床が可能です。
早期発見・早期治療が大切
いずれにせよ、「飛蚊症」の症状を感じたら、できるだけ早く眼科専門医を受診することをお勧めします。
また、一度、「生理的飛蚊症」と診断された場合でも、見え方が変化した場合や視力低下を感じたら、再診を受けてみてください。散瞳薬を点眼して瞳孔を広げて行う「眼底検査」では、目の病気だけでなく、他の疾患を発見できることもあります。
早期発見・早期治療が何よりも大切です。日頃から目の見え方に変化がないかどうかセルフチェックを心掛けてください。