風邪のような症状が現れる
感染しても発病しないことが
本年、各地での集団感染が判明し話題となった「結核」。かつては日本の死因第1位でしたが、適切な治療法が開発されてからは、一時期を除いて患者数は減少しています。この病気について、日本結核病学会の理事で、複十字病院(東京都清瀬市)呼吸器センターのセンター長(内科)を務める佐々木結花さん(医学博士)のお話しです。
「結核」は、結核菌という細菌に感染することで発症する病気です。
通常、結核菌は人の咳やくしゃみ、痰などのしぶきとともに体外に出て乾燥し、空中を漂います。その飛沫核を吸い込むことで、気道から肺に入り、気管支の末端にある肺胞に、一定期間定着することで感染するのです。
いわゆる「空気感染」ですが、結核菌を吸い込むだけで必ず感染するわけではなく、多くの場合は肺胞まで到達せず、感染は成立しません。
また、体内に菌が残った場合(感染した場合)でも、免疫によって菌が封じ込められていれば、発病することはありません。
結核予防法が改正された1951年当時、日本における年間の新規患者数は59万人もいました。東京オリンピックの開かれた64年でも1000人に1人がかかる病気で、若い世代の罹患者が大勢いました。
その後、栄養状態や環境衛生の向上などによって、2010年には2万3000人にまで減少しています。しかし、この数値はいわゆるG7(先進7カ国)の中では最下位です。
日本における結核の約8割は肺結核です。結核菌が肺の内部で増えて炎症を起こし、さらには、肺そのものが破壊されて呼吸する力が低下していきます。
また肺外結核といって、リンパ節を通して全身の臓器にまで影響を及ぼすこともあります。
感染してそのまま発病するものを初感染結核症といいます。
BCG接種をしていて通常の免疫能を有する方においては、感染してから発病まで通常約半年、遅くとも2年以内とされています。
他の感染症と比較すると、潜伏期間が長いという特徴に加え、空気感染をするので、いつ・どこで感染したか分かりにくい病気です。
近年では、高齢者がかかることが多くなっていますが、これは、体内に潜在していた結核菌が、免疫力の低下など、何らかの原因によって活性化し、増殖を始めることによると考えられており、これを内因性再燃による結核症と呼びます。
発病しやすい要因は、患者との濃厚接触のほか、長期間のステロイド内服、コントロールの難しい糖尿病、ストレスや睡眠障害――等による免疫力の低下などが挙げられます。
肺結核の症状は、咳や痰、発熱など、他の呼吸器疾患でも見られるようなものです。
加えて、発病していても、約30%は無症状もしくは呼吸器以外の症状を呈することもあります。
特に高齢者で、認知症のある方などは、自覚症状が乏しかったり、症状を覚えていなかったりすることもあるので注意が必要です。
そうした症状があっても、「結核ではないか」との疑いは持ちにくく、受診や診断が遅れがちです。
公益財団法人結核予防会では、通常の感冒薬を用いても改善した後、再び悪化する、咳や痰、微熱などが2週間以上続くようであれば、専門医を受診するように勧めています。
結核菌に感染しているかどうかの診断では、まず次のような検査を行います。
①ツベルクリン反応検査
ツベルクリンを注射し、原則として48時間後に判定します。
結核菌に感染していれば、発赤が出ます。ただし、日本では結核の重症化を予防するために生後6カ月までにBCG接種を行っており、ツベルクリン反応の発赤が結核感染によるものか、それともBCG接種による偽陽性か、判別が難しい場合があります。
②インターフェロンガンマ遊離試験
採血によって取り出した血液のリンパ球に対する検査によって結核の感染を調べることができます。
ツベルクリン反応検査と違い、採血データとして早めに結果が分かります。また、先に述べたBCG接種による影響を受けません。
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こうした検査に陽性で、発病あるいは今後の発病を心配しなければならない方には、胸部単純エックス線検査を行い、単純エックス線検査で発病が疑われた場合、喀痰検査で結核菌を排菌しているかどうかを調べます。
喀痰検査には①塗抹検査②培養検査③核酸増幅検査などがあります。
先に述べたように、結核には特異な症状が見られません。従って、診断で最も大切なことは、肺がんや肺真菌症、気管支炎など、他の疾患との鑑別になります。
結核の治療には隔離入院が必要とのイメージがありますが、これはあくまでも咳や痰を通して「排菌」が認められる場合などで、その基準は「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」によって定められています。
従って、結核であっても、症状が軽く、他に拡散させる可能性が低ければ通院治療も可能です。
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治療は基本的に薬物療法となります。通常、「イソニアジド」「リファンピシン」「ピラジナミド」と「エタンブトール」または「ストレプトマイシン」の4剤を併用します。
他の疾患の合併症がある場合や肝臓に疾患がある場合は、3剤のみを用いることもあります。
服用期間は、薬剤に抵抗性を有する菌でなければ、およそ半年間です。その間に大切なのは、医師の処方通り、用法・用量をきちんと守ること。「症状がなくなったから」などと、自己判断で服用を中止したり、量を減らしたりすると、結核菌が薬に対する耐性を獲得し、薬の効かない菌(耐性結核菌)ができてしまいます。
そうなると、さらに治療に時間がかかり、予後も芳しくありません。
国内では、かつてのような流行はなくなりましたが、近年は新たな課題が生まれてきています。
一つは、高齢の方が発病した際に、他の合併症があることにより治療が困難な場合があるということです。
また、国際化が進んだことで、海外からの感染者が渡航してくる可能性が大きくなっています。
さらに近年は、世界のエイズウイルス(HIV)感染者の約3分の1が結核に感染していることが分かっており、その場合は死亡率も非常に高くなっています。
ともあれ、結核は決して治らない病気ではありません。
発病を防ぐためにも、自身の免疫力を下げないような生活を心掛けてください。また、早期発見・早期治療が大事ですので、気になる症状があれば、早いうちに専門医を受診するようにしてください。