「マクロライド療法」が大きな効果
かつて「蓄膿症」と呼ばれていた「慢性副鼻腔炎」。ひどい鼻汁が3カ月以上持続したり、強い鼻閉感に悩まされることの多い病気です。今回は埼玉医科大学総合医療センター(埼玉県川越市)の菊地茂教授(耳鼻咽喉科)のお話です。
粘膜の腫れが慢性化の原因
鼻の周辺には、目を囲むように「上顎洞」「篩骨洞」「前頭洞」「蝶形骨洞」の四つの空洞(副鼻腔)があります(左イラスト)。
この副鼻腔に何らかの原因で炎症が起きている状態を副鼻腔炎といいます。
風邪などで鼻腔にウイルスや細菌が感染し、鼻腔とつながる副鼻腔にまで炎症が広がるのが「急性副鼻腔炎」で、一般に、こうした症状が3カ月以上続いたときに「慢性副鼻腔炎」と診断されます。
慢性化する原因は、鼻腔と副鼻腔をつなぐ「中鼻道」の粘膜が腫れ、副鼻腔内にたまった膿が排泄されにくくなることにあります。
また、こうした状態が続くと、粘膜の腫れは悪化し、鼻の中に「鼻茸(鼻ポリープ)」が発生してきます。
鼻茸のできる理由ははっきりとしませんが、鼻茸そのものは、他の内臓などにできるポリープと違い、がん化することはありません。
CTによる画像。左側(画像では右側)の副鼻腔に、通常では写らない影(矢印)が見られる
画像検査で診断を行う
主な症状に、鼻汁や鼻づまり、鼻汁が喉にまわる後鼻漏や嗅覚障害、頭痛や頭重感などがあります。
花粉症などのアレルギー性鼻炎との大きな違いは、鼻汁に粘りけがあることで、かゆみもみられません。
診察では、こうした症状があることに加え、画像診断として単純X線検査を行います。
副鼻腔に炎症がある場合は、通常は写らない粘膜の陰影が認められます。
また、先に述べたように、鼻内に鼻茸が見られた場合も、慢性副鼻腔炎の可能性が高いです。
より精密な診断のために、CT画像検査が行われることもあります。
近年は「好酸球性」が増加
アレルギー性鼻炎の患者数の増加に反比例して、「慢性副鼻腔炎」の患者数は減少してきているようです。
主な治療法は、薬物療法と手術になりますが、ほとんどの場合で軽快します。
特に、「マクロライド療法」という抗生物質を用いた薬物療法が大きな効果をあげています。
以下、治療法について説明します。
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①薬物療法(マクロライド療法)
「マクロライド療法」とは、通常は細菌を殺す目的で使用するマクロライド系抗菌薬(エリスロマイシン、ロキシスロマイシン、クラリスロマイシン)を、炎症を起こす物質の生産や鼻汁の分泌などを抑制する目的で使用します。
投与量は原則として常用量の半量で、3カ月間を目安に内服します。
長期投与になりますので、肝機能障害などの副作用に注意する必要がありますが、ほとんどの場合、この療法で治癒します。
②手術療法
重症の場合や鼻茸が多い場合などは手術を行います。
以前は、ほおの骨を削るなど、患者さんにとって負担の大きい手術が行われていましたが、近年では内視鏡を使った手術が大半です。
病状によって違いますが、中鼻道にたまった膿を除去するだけのことが多いです。入院期間も短くてよく、外来診療での日帰り手術を行っている治療機関もあります。
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近年では「好酸球性副鼻腔炎」という副鼻腔炎が増えてきています。
これは、血液の中にある白血球の一種である好酸球が、何らかの原因で増加し、副鼻腔に炎症を引き起こすものです。
従来の副鼻腔炎よりも症状が重く、鼻茸が多発し、嗅覚障害も強く現れます。
細菌によるものではないので抗菌薬は効かず、薬物療法では、ステロイド薬の内服が有効です。
急性期にきちんと治療を
「慢性副鼻腔炎」になる原因はさまざまですが、急性の時にきちんと治すことが大切です。
風邪をひいたときなどに、鼻の症状があるのをそのままにしておくと、急性副鼻腔炎から慢性副鼻腔炎へと進んでしまうことが多くあります。
そうした際には、鼻ネブライザーを使った治療や鼻洗浄(鼻うがい)が効果的でしょう。
特に、市販の鼻洗浄器などを使った鼻洗浄は自宅でもできます。その際には、「生理食塩水」を使います。生理食塩水がない場合には、煮沸した水200㏄を冷ましたものに、食塩2㌘を加えて、自分で作ることができます。
鼻腔内を清潔に保つことは、他の鼻疾患の予防にも役立つでしょう。