聴覚症状を伴うめまい
厚生労働省指定の特定疾患(難病)である「メニエール病」。めまいを繰り返す代表的な疾患として知られ、最近は高齢者、女性の患者数も増えてきているようです。この病気について、「日本めまい平衡医学会専門会員」である近畿大学医学部・耳鼻咽喉科学教室の土井勝美教授のお話です。
進行すると生活に支障
「メニエール病」は、難聴や耳鳴り、耳閉感(耳が詰まった感じ)などの
聴覚症状を伴い、めまい発作を繰り返します。
めまいの多くは、ぐるぐる回る回転性めまいで、フラフラしたり、
グラグラするタイプは少ないようです。
めまいは最低でも20分から30分以上、長い人では数時間から半日、
一日もめまいが続き、吐き気を訴える人や嘔吐する人もいます。
初期の聴覚症状は、片方の耳に現れる低音域を中心にした難聴が主ですが、
疾患の進行とともに中・高音域にも広がり、さらに悪化すると
全周波数域で聞こえにくくなります。
また、片側だけでなく、両耳に聴覚症状が出るようになると
日常生活にも大きな支障を来します。
厚労省による診断基準
「メニエール病」の診断基準は、1974年(昭和49年)に、
厚生省(当時)メニエール病調査研究班によって
「メニエール病診断の手引」として作成され、
2008年(平成20年)度の厚生労働省前庭機能異常調査研究班により改定されました。
それによると、メニエール病確実例は、難聴や耳鳴り、
耳の閉塞感などの聴覚症状を伴うめまい発作が繰り返されるものです。
その他、メニエール病非定型例として、「蝸牛型」と「前庭型」があります。
「蝸牛型」は、難聴や耳鳴り、耳の閉塞感などの聴覚症状は反復しますが、
めまい発作を伴いません。
「前庭型」は、メニエール病確実例に類似しためまい発作を繰り返しますが、
難聴などの聴覚症状が固定していて、めまい発作に関連して変動することがありません。
内リンパ水腫が原因
ストレスとの関連も
「メニエール病」は、内耳に「内リンパ液」が過剰にたまる
「内リンパ水腫」が原因であることは分かっています。
しかし、どのようにして内リンパ液が形成されるのか、そのメカニズムは不明です。
内リンパ水腫があるかないかを推察する検査には、
内耳の神経反応を記録する「蝸電図検査」、利尿剤を投与して
聴力や平衡機能を調べる「グリセロール検査」「フロセミド検査」などがあります。
治療法は、薬物療法(内科治療)が中心となります。
浸透圧利尿剤である「イソソルビド(イソバイド)」や「ステロイド剤」を用いて
、内リンパ水腫の改善を図ります。
めまいや不安を和らげるために「抗めまい薬」「抗不安薬」が処方されることもあります。
また、メニエール病の発症にはストレスとの関連が考えられますので、
肉体的・精神的ストレスを回避するための生活習慣の改善が大事になります。
十分な睡眠をとり、規則正しい生活を心掛け、
適度な有酸素運動などを行うことが推奨されています。
約8割の患者さんでは、これらの治療でめまいは消失します。
残り2割の患者さんではめまいの改善がなく、以下に述べる外科治療の適応になります。
外科治療で最も施行されるのは「内リンパのう開放術」です。
中耳の一番奥にある内リンパ嚢を切開して、過剰にたまった内リンパ液を抜きます。
全身麻酔の手術で、手術時間は1時間半程度です。
「ゲンタマイシン鼓室内注入術」では、鼓膜に針を刺して
ゲンタマイシン(内耳毒)を注入します。
内耳のめまいを感じる細胞を壊して、めまい発作を抑制します。
この方法では、同じく内耳にある聞こえの細胞も破壊し
難聴がさらに悪化する危険性があります。
めまい発作がどうしても制御できない患者さんには
、最終治療として「前庭神経切断術」が行われます。
この手術を受けると、メニエール病の発作は100%消失します。
専門医を受診し早期治療
大部分の患者さんでは、適切な治療によってめまい症状は改善します。
しかし、後遺症を残さずにできるだけ早く安定させるためには、
早い段階でめまい専門医の診断を受けることが大切です。
治療が遅れると、めまいは消失しても、難聴や耳鳴りなどの
後遺症が固定して障害として残ります。
最近は、「MRI(磁気共鳴画像装置)検査」の進歩によって、
内リンパ水腫が視覚的に検出できるようになりました。
また、「赤外線ビデオ装置」で、メニエール病に特徴的な眼振(目の揺れ)を
簡単に観察することができるようになりました。
メニエール病に似た症状のある他の内耳疾患、
聴神経腫瘍や小脳・脳幹梗塞などの中枢性疾患を鑑別した上で、
メニエール病の確定診断に至ります。
「日本めまい平衡医学会」のホームページ(https://www.memai.jp/)では、
めまい診療の専門知識と診療技術をもった医師が「めまい相談医」として
紹介されています。
専門医を早期に受診し、早期診断と早期治療に結び付けることが大切です。