痛風
「高尿酸血症」による炎症
ある日、突然に関節が腫れあがり、激しい痛みに襲われる「痛風」。「風にあたっても痛い」というほどの激痛から、こう呼ばれるようになりました。推定患者数は100万人に迫り、そのほとんどが男性です。この病気について、福井大学で理事・副学長を務める上田孝典さん(医学博士)のお話です。
原因物質は「プリン体」
「痛風」は特に足の親指の関節が腫れてひどく痛む病気として知られています。
しかし、この痛みは、「痛風関節炎」の発作(痛風発作)で、症状の一部に過ぎません。
明治時代、来日したドイツ人医師のベルツ博士は、「日本にはほとんど痛風はない」と書き残しています。
また以前は、「ぜいたく病」などといわれ中高年の男性に多かったのですが、最近は、30代で発作を経験する人もいるなど若年化しています。
痛風の原因は「尿酸」が体内に蓄積し「高尿酸血症」という状態になることにあります。
「尿酸」は普通、血液に溶けた状態で存在しますが、量が増えることで溶けきれなくなり、その尿酸が関節などに結晶化し、炎症を引き起こすのです。
ですから、体温の低い(結晶が溶けにくい)場所である足の指、アキレス腱の付け根などが多いのです。
「尿酸」のもととなるのが「プリン体」で、私たちの体を構成する細胞などに含まれています。
通常、「尿酸」は、腎臓を通って尿と共に排泄されます。
しかし、何らかの原因によって「尿酸」の生成と排泄のバランスが崩れたとき、尿酸の値が高くなります。
現在、血液中の尿酸の値が7ミリグラム/デシリットルを超えた状態を「高尿酸血症」としてガイドラインで定めています。
ホルモンの関係から女性は男性に比べて尿酸値が低くなっています。閉経後は女性でも徐々に尿酸値が高くなりますが、痛風患者は、その9割以上が男性です。
3つのタイプに分類
「高尿酸血症」は以下の三つの型に分けることができます。
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①排泄低下型
遺伝的な要因などにより腎臓から尿酸を排泄する機能に異常があり、尿酸値が高くなってしまうタイプで、痛風の方の6割がこの型です。
②産生過剰型
体内で尿酸を作り過ぎてしまう機能異常です。プリン体の過剰摂取もこのタイプと考えることができます。
③混合型
①と②の両方の機能異常を併せ持つ型です。痛風発作を起こす方の4分の1がこのタイプです。
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それ以外にも、二次性の要因として、薬の副作用や腎臓の病気なども知られています。アルコールの大量摂取、急性白血病や悪性リンパ腫などの悪性疾患でも血中の尿酸値が高まります。
「高尿酸血症」では、腎機能障害や尿路結石、また、高血圧症・糖尿病などの生活習慣病など、他の合併症の危険性も高まりますので気を付けてください。
治療は生活指導が基本
「高尿酸血症」では、尿酸値に応じた治療を行います。
7~8ミリグラム/デシリットルの場合、まずは「食事療法」「運動療法」といった生活指導となります。食べ過ぎ、飲み過ぎや運動不足など生活習慣を見直します。
かつての食事療法では、尿酸のもととなるプリン体の摂取を厳しく控えることが基本とされてきました。
プリン体を多く含む食品を控えた方が良いのは当然ですが、食物から摂取されるプリン体は全体の約3分の1です。過剰摂取は禁物ですが、プリン体の摂取だけにこだわらず、バランスの良い食事を心掛けてください。
運動療法で効果的なのは、ウオーキングや水泳などの有酸素運動です。過度な無酸素運動は、かえって尿酸値の上昇を招きますので避けるようにしましょう。
8ミリグラム/デシリットル以上で腎臓病などを合併していると薬物治療を検討します。9ミリグラム/デシリットル以上の場合は、痛風発作が起きる可能性が高いので、薬による治療を行う場合が多いです。当然、その場合でも生活習慣の改善は行います。
薬は、排泄低下型では、「ベンズブロマロン」、産生過剰型では「アロプリノール」のほか、最近では「フェブキソスタット」「トピロキソスタット」を用います。
こうした尿酸降下薬は、症状が治まったからといって、自己判断で服用をやめたり、量を加減したりしてはいけません。
薬をやめてしまうと、尿酸値はすぐに高くなってしまいます。基本的に生涯にわたって服用を続けることが必要だと考えておきましょう。
また、痛風発作がある場合は、痛みを抑える薬を使いますが、この場合は、副作用を軽くするためにも長期間の使用は避けるようにします。
いずれにせよ、きちんと医師と相談して治療を進めてください。
尿酸値のコントロールを
日頃から心掛けたいこと
予防のために日頃から心掛けたいことは以下の通りです。
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①十分な水分補給
尿の中に尿酸を溶けやすくするためにも十分な水分補給が大切です。
1日の尿量として約2リットルを目安にしてください。その際、水やお茶などで水分をとるようにします。ジュースや清涼飲料水にはカロリー源である糖質が含まれています。特に果糖は、カロリー上昇とは別に代謝の過程で尿酸値を上げる可能性があります。
また、ビールはプリン体が多く含まれるといわれていますが、アルコールはどんな種類でも尿酸を増加させます。したがって、「プリン体オフ」のビールであっても、アルコールとしての注意は必要です。
1日の適量は、ビールなら中瓶1本、ワインなら200ミリリットル、日本酒なら1合、ウイスキーならダブル1杯程度で、週に2日ぐらいは、飲まない日を設けてください。
②野菜を十分にとる
尿酸はアルカリ性から中性の液体にはよく溶けます。そこで尿を中性に保つためにも、野菜を十分にとるようにします。海草類やきのこ類も勧められます。
特にプリン体の多い、レバーや魚の干物は食べ過ぎない方が良いでしょう。
③適度な運動を行う
適度な運動は、肥満や高血圧などにも良い影響があります。
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尿酸値を正常にコントロールできれば、痛風発作だけでなく、他の合併症の予防にもつながります。尿酸値は強いストレスによっても上昇することが分かっていますので、あまり神経質にならず病気と向き合うことが大切です。