潜在的な患者数は200万人
夜、しっかりと睡眠をとっているはずなのに日中に眠気を感じる――そんな時に考えられるのが「睡眠時無呼吸症候群」です。この病気について、前橋赤十字病院(群馬県前橋市)呼吸器内科の堀江健夫副部長のお話です。
「睡眠時無呼吸症候群(SAS=Sleep Apnea Syndrome)」とは、睡眠中に何度も呼吸が止まった状態(無呼吸)が繰り返される病気です。
無呼吸とは10秒以上、気道の空気の流れが止まった状態のことで、無呼吸が1時間に5回以上ある場合、あるいは一晩(7時間)の睡眠で30回以上あると、この病気であると定義されています。
日本では、1~3%の潜在的な患者数がいるとされているので、200万人以上がこの病気に罹患していると考えられています。
発症しやすいのは50代以降で、呼吸中枢を刺激する女性ホルモン(プロゲステロン)との関係で、女性は閉経後に発症数が増えます。
扁桃腺肥大やアデノイド増殖症などの要因で、子どもがかかることもあり、あらゆる世代で発症します。
無呼吸の結果、睡眠が妨げられ、日中に眠気や倦怠感があります。
それ以外にも、いびきや起床時の頭痛・頭重感、夜間頻尿、EDなどの症状が現れることがあります。
このような症状に加え、判断能力の低下などを伴うことで、認知症と間違われることもあるようです。
一方、呼吸停止が繰り返されることで、酸素不足を補うために心拍数が上昇。高血圧や不整脈、脳血管障害や虚血性心疾患などの合併症にも注意が必要になります。
以前は、肥満体形のいわゆるメタボな人の病気といわれていたこともありましたが、痩せている人がかからないわけではありません。多くの場合、喉の奥の空気の通り道が狭いことで起きるのです。
当然、太っていれば気道が狭くなりますが、それ以外にも、心臓や脳の病気によるもの、顎が小さいなど骨格の原因によるもの、鼻詰まりのある人など、さまざまな要因があります。
その要因によって、「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)」と「中枢性睡眠時無呼吸症候群(CSA)」に大別することができますが、SASのほとんどはOSAです。
診断では、自覚症状などの問診に加え、どのような時に眠気があるかを「ESSテスト」と呼ばれるもので評価します。
SASが疑われる場合、レントゲン撮影で気道の狭窄具合や、鼻腔通気度検査で鼻の通り具合などを確認します。
治療方法を決定するためには、さらに十分な検査が必要で、一般的には一晩入院して眠り、その間に呼吸状態や睡眠状態を調べる必要があります。
この検査のメインは「ポリソムノグラフィ検査(PSG)」となります。
PSGでは、脳波や心電図、胸部・腹部の呼吸運動、鼻からの空気の流れ、動脈中の酸素量などを調べることができます。
近年は、簡易診断機を用いることで、入院せずに自宅で検査を行えるようになっています。
ただし、この方法は、あくまでも簡易的なものですので、眠気が強い場合などは精密検査を行う場合もあります。
中等症から重症であることが分かった場合、治療の第1選択は「CPAP療法」となります。
これは、鼻マスクを装着して、一定圧を加えた空気を送り込むことで、上気道の閉塞を取り除き、睡眠中の気道を確保する非常に有効な治療法です。
装置は、カバンに入るぐらいの大きさで、重さは1~2キロ程度ですので、持ち運びも可能です。日本では保険適用もされています。
CPAPを使用すると、睡眠の質は大きく改善します。当然、日中の眠気がなくなり、快適な日常生活を送ることができます。夜間尿や高血圧が改善した人も多くいます。使い始めは不快に感じる人もいるようですが、その効果を実感できるよう、医師の指示通りに使用することが大切です。
また、軽症から中等症であれば、いわゆるマウスピースを使用することもあります。SASでマウスピースを使用する場合は、まずは医科を受診し、その後、その指示(紹介)によって歯科に行くようにしてください。
かつては外科的な治療法として、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)という手術が行われることが多かったのですが、患者さんの負担も大きいことや効果が期待できない場合があるので、あまり行われなくなっています。
SASは、「平成の2・26事件」といわれる、新幹線運転士の居眠り事故で注目を集めました。
この病気のリスクは、単に将来の高血圧や糖尿病など、自身の健康だけでなく、他人にも影響を及ぼすのです。
まずは規則正しい生活、太っていれば減量、喫煙している人は禁煙など、生活習慣の是正に取り組んでみてください。就寝前のアルコールは、いびきや睡眠時の無呼吸を悪化させることがありますので控えたほうがいいでしょう。一部の人は、こうしたことだけで症状が改善することがあります。その上で、気になる場合は、まずは近所のかかりつけ医に相談してみてください。
日本人の平均睡眠時間は、この50年間で1時間程度、減ってきているといわれています。世界的に見ても睡眠時間が短く、加えて生活が夜型になり、本来は副交感神経が優位になって心身を休ませるはずが、交感神経が活発に働いて十分に眠れていない人も多くいます。ぜひとも、自身の睡眠について見直す機会をつくってみてはいかがでしょうか。