罹患したら決して無理をしない
例年、12月から翌年3月ごろにかけて流行する「インフルエンザ」。患者数は1月から2月にかけてがピークとなります。神戸大学医学部附属病院・感染症内科の岩田健太郎教授のお話です。
三つの種類に大別される
「インフルエンザ」という言葉は、16世紀のイタリアで、天体の運行や寒気などの影響によって病気が発生するものと考えられたことから「インフルエンツァ(影響)」と呼ばれたのが語源になっています。
その後、この病気が「ウイルス」によるものだということが分かったのは1930年代のことです。
原因となる「ウイルス」とは、簡単にいえば「細菌」よりも小さく「抗生物質」が効かないもののことです。
「インフルエンザウイルス」には、抗原タンパクの種類の違いによって「A型」「B型」「C型」と大きく三つがあります。
また、「インフルエンザウイルス」の表面には「ヘムアグルチニン(H)」と「ノイラミニダーゼ(N)」の2種類のタンパクがあります。
「H1N1型」「H3N2型」などという名称を聞いたことがある人も多いと思います。
このタンパクの違いを「亜型」といいますが、特に「A型インフルエンザウイルス」は、毎年のように、このタンパクが少しずつ変異をしています。
一般的に「新型インフルエンザ」といわれるのは、この変異が大きく、多くの人が免疫を持っていないために大規模な流行(パンデミック)を起こす「インフルエンザウイルス」を指しています。
1918年の「スペイン風邪」、68年の「香港風邪」、近年では、2009年のインフルエンザなどが、いわゆる「新型インフルエンザウイルス」に当たるでしょう。
ただし免疫を獲得する人が多くなると、これらも季節性のインフルエンザとして扱われます。09年に流行したインフルエンザも、今では季節性のインフルエンザになっています。
検査では「偽陰性」の可能性も
感染経路は、咳やくしゃみなどによる「飛沫感染」と、ウイルスが付着した部分を触れた手などを介する「接触感染」があります。ウイルスの感染力は強く、体内で急激に増殖し、潜伏期間はとても短く、1~2日です。
主な症状は、突然の発熱(高熱)、悪寒、咳や喉の痛み、関節や筋肉の痛みなどです。
免疫疾患がある方、肺気腫など呼吸器疾患のある方、妊婦や乳幼児、あるいは高齢の方などは、重症化する恐れがありますので注意が必要です。
臨床現場での診断では「迅速診断キット」が用いられます。これは、鼻の奥や喉の入り口辺りを綿棒のようなもので擦って「インフルエンザウイルス」があるかどうかを調べるものです。
しかし、この検査法の陽性率は約6割で、「偽陽性」「偽陰性」という結果が出てしまうことも。特に感染初期ではウイルス量が少なく、陰性の結果となることが多くあります。
時々、患者さんから「検査でインフルエンザでないことを証明してください」と言われることがありますが、これほど難しいことはありません。
加えて、検査自体に少し痛みを伴うこともありますので、インフルエンザを疑う症状があっても、必ずしも検査を行う必要はなく、医師にとって大切なのは、どうしたら患者さんの症状を取り除くことができるかではないかと考えています。
1週間程度で自然治癒する
症状が続くのは、長くても3~4日で、他の合併症がなければ、1週間程度で自然治癒します。
通常、治療では「インフルエンザウイルス」に対する「ノイラミニダーゼ阻害薬(抗インフルエンザウイルス薬)」を使用します。
経口薬、吸入薬、点滴などの種類がありますが、肺炎を合併している重症患者さんなど入院が必要な方以外は、基本的に経口薬、吸入薬を用います。
この薬は、先に述べた「ノイラミニダーゼ」の働きを抑えることで、ウイルスが細胞の中から飛び出して増殖するのを防ぎます。
増殖しなくなったウイルスは、体内の免疫によって排除されます。従って、薬を服用したからといって、すぐにウイルスがなくなって治癒するわけではなく、発熱期間が1~2日、短くなるだけです。
加えて、多くの場合は、発症後48時間以内に薬を使用しなければ効果がないことが分かっています。
「薬剤耐性インフルエンザウイルス」や精神・神経症状などの副作用にも注意が必要ですので、薬の服用は医師の指示に従ってください。
場合によっては、薬を服用しないという選択もあるでしょう。
その上で、何よりも大切なのは、決して無理をせず、しっかりと体を休めることです。
先に述べた通り、症状が続くのは3~4日です。自宅で安静にして、休養や睡眠を十分にとることが必要です。
高熱に加えて、嘔吐や下痢などの症状があると脱水症状が起きやすいので、水分補給も心掛けてください。ただし当然のことですが、他の基礎疾患があり重症化の恐れがあったり、症状として呼吸障害があるなどした場合は、医療機関を早めに受診してください。
予防は「ワクチン接種」で
予防のためにはワクチンの接種が有効です。ただし、残念なことに効果は長く続かないので、毎年の接種が必要です。
これまでのワクチンはA型2種類、B型1種類に効果がある「3価ワクチン」でしたが、本年からはB型が1種類追加され、B型が2種類になり「4価ワクチン」となっています。
ワクチンを接種すれば、絶対にインフルエンザにかからないわけではありません。しかし、全体としては、発症を抑える効果が一定程度認められており、発症しても重症化しにくいといわれています。
私は、個人レベルでのワクチン接種を「自動車のシートベルト」に例えています。シートベルトをしていても事故を起こすことはあります。ですが、シートベルトをしていれば、事故を起こしても、守られることがあることは確かです。
インフルエンザに罹患して苦しい思いをするのは誰もが同じです。自身が罹患しないことで、他の人への感染を防ぐことができることにも大きな意味があるのではないでしょうか。
ですから周囲に高齢者や乳幼児がいる人には積極的にワクチン接種をしていただきたいと思います。65歳以上の方は、定期予防接種の対象となっていますので、かかりつけ医などと相談してみてはいかがでしょうか。
他の感染症と同様に、基本的な対策としては、マスクの着用や手洗い・うがいの励行が大切です。自身の感染を防ぐとともに、周囲への心遣いも必要です。