適切な治療と正しい理解を
「てんかん」は、脳の神経細胞が異常なほど活発に働くことにより、さまざまな症状が引き起こされます。多くの場合、治療で良くなりますが、正しく理解されていないことも多いようです。「てんかん」について、静岡てんかん・神経医療センター(静岡市葵区)の井上有史院長のお話です。
国内患者数は約100万人
「てんかん」は人口の約1%いると推計されており、日本国内の患者数も約100万人と、決して珍しい病気ではありません。
乳幼児期から小児期に発症することが多く、その後は減少しますが、60歳くらいから徐々に増え、高齢になるほど発症率が高くなっています。
これは、高齢化の進展のほか、高齢者ほど脳に損傷を受ける疾病が多くなっていることが要因だと思われます。
脳に何らかの障害や傷がある場合は「症候性てんかん」といい、生まれつき脳に損傷があった場合や脳腫瘍、脳梗塞や脳出血、脳炎や外傷などが原因です。
一方、脳内に明らかな病変が見つからない場合は「特発性てんかん」といいます。
脳は、その部位によって運動・感覚・意識・記憶・感情など、つかさどっている機能が異なります。
従って、発作が脳内の一部分から起こり始める「部分てんかん」では、発作が神経細胞のどこから広がっていくかによって、体の一部分が動く、音が聞こえる、光や模様が見える、ぼんやりする、記憶がなくなるなど、発作の症状も違ってきます。
脳全体で同時に広く発作が起こる「全般てんかん」の場合、意識を失ったり、けいれんを起こしたりすることもあります。
ほとんどの発作は長くても1~2分です。頻度も数年に1回という人から一日に何回も起こる人までさまざまです。
連携した診療の重要性
「てんかん」の診療は3段階に分けられ、それぞれの医療機関が連携しながら進めることが重要だと考えられています。
気になる症状が見受けられた場合、まずは近所のかかりつけ医に相談してください。
それによって「てんかん」が疑われる場合は、小児科や神経内科、脳神経外科、精神科などを受診し、治療を行います。
それでも発作が治まらない場合や薬の副作用が強い場合などは専門医のいる医療機関を受診することが勧められます。
診断では、脳波や磁気共鳴画像装置(MRI)の検査が行われます。
脳波検査では、患者の7割くらいに発作時以外でも特徴的な波形が見られます。
MRI検査では、脳の損傷や腫瘍など「てんかん」の原因となっている疾患の確認をします。
また、他の疾患との鑑別のため、血液検査や遺伝子検査などを行うことがあります。
タイプによって異なる薬
「てんかん」はタイプによって治療法や薬が異なります。従って、何よりも大切なのは正確な診断を受けてから治療法を決めることです。
特発性の部分てんかんでは、成長とともに症状がなくなり、自然と治ることもあります。また、一生のうち、何回かしか発作がないなど、治療を必要としない場合もあります。
そうした場合も含め、最初に行うのは、発作の誘因を避けることです。誘因には寝不足やストレスなどが挙げられます。フラッシュなど強い光に反応することもあります。
その上で基本となるのが「抗てんかん薬」による「薬物治療」です。
患者さんの6割から7割は、薬によって発作のコントロールが可能です。特に高齢者には薬の効果が高いことが分かっています。
「抗てんかん薬」には、さまざまな種類がありますのでタイプに応じて使用する薬を選択します。
通常は1剤もしくは2剤を使用しますが、それでも発作が治まらない場合、あるいは眠気や食欲不振などの副作用が強い場合には、医師に相談し、別の薬剤に切り替えます。
服用する上で大切なことは、医師の処方通り、規則的に服薬することです。
一時的に発作が治まったからといって、自己判断で量を減らしたり、薬をやめたりしないようにしてください。
一部の「てんかん」では、「ケトン食療法」といって、低糖質・高脂肪の食事を取る方法があります。
これは、体内でケトン体という物質を増やすことで発作を抑えるものですが、栄養バランスが偏るなどのデメリットもあります。
外科手術が有効な場合も
薬で発作をコントロールできない「難治性てんかん」の場合、外科手術によって発作の源となる脳の一部を切除することで劇的に改善することもあります。特に「側頭葉てんかん」では大きな効果があります。
脳の切除手術ができない場合には、「迷走神経刺激法」といって、電気刺激によって発作を抑制する方法もあります。
ともあれ、検査法や手術法など、医療技術も進歩を重ねており、かつてと比べると安全性は格段に高まっています。薬を飲み続けても発作が治まらない場合は、手術を検討しても良いでしょう。
周囲のサポートが大切
この病気で最も大切なことは、患者さんだけでなく、周囲の人たちがこの病気を理解し、しっかりとサポートしていくことです。
多くの患者さんは、発作が起きなければ健常人と変わらない生活を営むことができます。
なかには、芸術家やアスリートとして活躍している人も少なくありません。
しかし、発作によって意識障害が起こる人は、自分がどのような状態なのか知ることができません。
先に述べた通り、発作は長くても1~2分です。てんかん発作の人がいたら、まずは呼吸を確保してあげ、周囲にある危険物をどけてあげてください。
無理やりに起こそうとしたり、口の中に物を入れてはいけません。発作が長く続くようであれば救急車を要請してください。
近年、認知症、脳梗塞などの脳疾患で引き起こされる高齢者のてんかんも増えています。
今後、この病気の地域・社会での啓発が進み、患者さんがより良い医療を受けられるようになることを期待しています。