大腸とは
早期発見で根治可能
近年、患者数が増加している「大腸がん」。日本人女性のがんの死因では第1位となっています。ただし早期に発見し治療をすれば、ほぼ100%近く治る病気です。この病気について、関西労災病院(兵庫県尼崎市)の下部消化器外科部長である加藤健志さん(医学博士)のお話です。
高齢者ほど罹患率は高い
大腸は、盲腸、結腸、直腸、肛門管、肛門と続く約2メートルの管です。
小腸で栄養分の吸収が行われた残りの消化物から水分を吸収し、便を作る器官です。
上皮の粘膜の細胞が悪性化してがんとなります。その原因は、遺伝的な要因、食生活の変化(欧米化)、運動不足などといわれていますが、確かなことは分かっていません。
最初はゆっくり進行しますが、ある時から急激に悪化すると考えられています。
部位としては、S状結腸と直腸にできやすいです。50歳代から増加しはじめ、60歳を超えると罹患率は高くなります。男女差は、ほぼありません。
症状は発生部位や進行度によって異なりますが、主に血便、下血、便秘と下痢の繰り返し、腹痛や貧血などです。
中でも血便の頻度が高いのですが、痔などの良性疾患でも同じような症状があります。
また、早期では自覚症状がない場合が多いので、早めに消化器内科や消化器外科、肛門科などを受診することが大切です。
大腸の壁
五つの病期に分類される
大腸の壁は内側から粘膜、粘膜下層、固有筋層、漿膜下層、漿膜という5層になっています。
「大腸がん」は、進行するにつれ、壁の奥深くへと侵入していきます。さらに進行すると、リンパ節や他の臓器に転移します。
進行によって、以下の五つの病期(ステージ)に分類され、数字が上がるほど治癒する確率が下がります。
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0期=がんが粘膜にとどまり転移していない
Ⅰ期=がんが大腸壁の筋層までにとどまっている
Ⅱ期=がんが大腸壁の筋層を越えているがリンパ節転移はしていない
Ⅲ期=がんがリンパ節に転移しているが、他の臓器には転移していない
Ⅳ期=腹膜、肝臓、肺などに転移している
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「大腸がん」が疑われた時は、以下のような検査・診断を行います。
①内視鏡検査
検査前に腸管洗浄液を飲んで、大腸内をきれいにします。肛門から内視鏡を挿入して、直腸から盲腸まで観察します。
ポリープなどの病変を見つけた場合、青い色素を使用したり、拡大して観察します。また、一部の組織を採取して、悪性か良性かを鑑別します。必要があれば、ポリープを切除することもあります。
②注腸造影検査
腸内をきれいにし、肛門からバリウムと空気を注入し、X線写真を撮ります。
がんの正確な位置や大きさ、腸の狭さの程度などが分かります。
③CT、MRI、超音波、PET検査
治療前に転移や周辺の臓器への広がりなどを調べるために行います。
ブドウ糖を検出する薬剤を用いる「PET検査」では、がんのブドウ糖を取り込む性質を利用して、全身のがん細胞を検出することが可能で、CTやMRI、超音波検査などでは分かりにくい転移・再発部位が発見できる場合があります。
④腫瘍マーカー(血液検査)
腫瘍マーカーとは、がんが潜んでいると異常値を示す血液検査の項目のことで、がんによって多くの種類があります。
「大腸がん」では、CEAとCA19―9と呼ばれるマーカーが一般的です。しかし、早期発見できるマーカーではありません。また、進行がんでも異常値が認められない場合があります。定期的に測定して数値の変化をみることが大切です。
年1回の健診を欠かさずに
治療の基本は原発巣の切除
治療は病期によって決まりますが、基本は原発巣を切除することになります。
以下に、主な治療法について説明します。
①手術療法
(1)内視鏡治療
ポリープの大きさや形に応じて、次の三つがあります。
○内視鏡的ポリープ切除術(ポリペクトミー)
茎のあるポリープにループ状の針金(スネア)を引っかけてから、高周波電流で焼き切ります。
○内視鏡的粘膜切除術(EMR)
平べったく大腸壁に貼り付いたようなポリープの場合に用います。粘膜下層に生理食塩水などを注入して周辺の粘膜を浮き上がらせます。この状態でポリペクトミーと同様にスネアをかけて、やや広い範囲の粘膜を焼き切ります。
○内視鏡的粘膜下層はく離術(ESD)
切除が困難な大きさの早期がんに対して行います。粘膜下層に生理食塩水などを注入して病変を粘膜下層ごと電気メスで徐々にはぎ取ります。
(2)外科手術
I期以上の場合は外科手術が必要です。
がんの部分だけでなくリンパ節も一緒に切除(リンパ節郭清)します。
切り取る腸の長さは、がんの部位によって異なりますが、15~20センチほどになります。結腸は20センチほど切除しても、術後の機能障害(排便・排尿・性機能障害)は、ほとんど起こりません。
直腸がんの場合、近くに前立腺・膀胱・子宮・卵巣など、排尿や性機能に関わる臓器があります。
以前は、肛門まで切除されることが多かったのですが、最近は、肛門を温存するケースが増えています。肛門のすぐ近くにできた場合でも、肛門の働きを担う筋肉である「肛門括約筋」の一部を残す「肛門括約筋間切除術」が行われるようになってきました。
また、開腹手術でなく、おなかに四~五つの小さな穴を開け、専用のモニターで画像を確認しながら行う腹腔鏡手術が普及してきました。
どちらの手術を選択するかは、がんの進行度や部位、医療機関によって異なりますので、担当医と相談してください。
②化学療法(抗がん剤治療)
進行がんの手術後の再発抑制や手術前のがんの縮小などのために行います。
かつては「大腸がん」に効果のある抗がん剤はないといわれていたのですが、最近は新たな薬が複数、開発されており、患者さんの症状に合わせて数種類の薬剤を組み合わせて行います。
また、がんの増殖に必要とされる特異的な分子の働きを抑える「アバスチン」「ベクティビックス」「アービタックス」といった「分子標的薬」も併用し、効果を高めています。
③放射線療法
直腸がんの手術前後の補助治療として行うことがあります。
定期的な検査が大切
便潜血検査は、自宅で採取した便に血が混じっていないかどうかを調べるだけで済みますので、とても簡単です。
多くの自治体や職場の定期健診などで行われていますから、年に1回は受けるようにしてください。
便に血が混じっているのが目で見て分かる状態など、症状が分かるようになると、大腸の病気が進行している可能性があります。
「大腸がん」そのものの進行はゆっくりですので、何も症状がない時から、定期的に健診を受けることが大切です。
特に50歳を過ぎてからは、一度、「内視鏡検査」を受けてみてはいかがでしょうか。
検査前には大腸の中を空にします。腸もきれいになりますので、ぜひとも受診してください。