8つの“脳番地”を鍛える
高齢になって記憶や集中力などの衰えを感じても、すぐに「老化」のせいにして諦める必要はありません。1万人以上の脳画像を診断してきた「脳の学校」代表の加藤俊徳さんのお話です。脳が若返るトレーニング法です。
実年齢と関係なし
「物忘れがひどくなった」「ミスが増えた」など、加齢に伴った脳(頭)の変化を、
老化によるものと思い込んでいる人が少なくありません。
実は、体の中で最も寿命が長いのが「脳」です。
鍛えれば、脳は120歳まで生きる力を持っています。
年齢を理由に諦める人が多いのですが、
新たな刺激を与えると今まで使わなかった脳細胞も活動し始め、
実年齢に関係なく成長するのです。
脳には1000億個以上の細胞があり、思考系や感情系など、
似た働きの細胞同士で大まかに八つの集団を作っています。
そこで私は、脳を1枚の地図に見立て、それらの集団がある場所を
“脳番地”と呼んでいます。
脳の老化を予防して若返りを促すためには、
八つ全ての脳番地をバランスよく鍛えることが重要です。
忙しい≠フル回転
中高年以上は、脳を鍛えるのに最適な時期といえます。
すでに備わっている思考力や伝達力などを生かすことで、
総合的に物事や知識を扱える脳になるからです。
でも、忙しい日々を送っているからといって「脳がフル回転」しているとは限りません。
脳の使い方に偏りがあり、使われていない脳番地があることも。
毎日のトレーニングで“休眠中”の脳番地を育てましょう。
脳が育つとは、脳番地から木の枝が伸びるように“枝ぶり”が太くなること。
MRI(磁気共鳴画像装置)で撮影した、3人の女性の脳をご覧ください(画像参照)。
聴覚系の枝ぶりが発達した75歳の人の脳は、50歳の人と比べても大差がなく、
元気なことを示しています。一方、44歳の人の脳は運動系で“枝枯れ”の症状が。
運動不足や食生活を改善し、良い睡眠を取るなどの必要があります。
朝夜15分ずつ継続
今回、私がお勧めする効果的なトレーニングは、八つの脳番地で「運動系」は毎日、
それ以外の七つを曜日ごとに鍛えるやり方です。
1日のプログラムは、
①脳番地に応じたワーク②エクササイズ③日記――という3要素で構成。
ワークは朝の15分、エクササイズは日中、日記は夜の15分で行うなど、
生活に合わせて習慣化します。
例えば、「思考系」を鍛えるワークでは、いつも使っているラジオの音が
聞こえない原因をイメージ。一つの物事をさまざまな角度から考える力が身に付きます。
次に、エクササイズでは、新聞紙などを丸めてゴミ箱に投げる運動を。
前頭葉が刺激され、集中力が高まることで前向きな気持ちになります。
ゴミ箱から外れた物を拾う際は、膝を意識してしゃがみ、立ち上がりましょう。
最後に、日記は夕食後などに1日を振り返り、その日の出来事や食事内容、
体重などを記録しましょう。
日記には「明日の楽しみ」を書くと、記憶力の向上につながります。
なぜなら、脳は“生きる未来”があるからこそ記憶する機能が備わった、
ともいえるからです。ぜひ、楽しい未来(明日)を想像してみてください。
人生は右肩上がり
年を重ねても生き生きしている人のように、
私は「人生は右肩上がりでなければならない」と考えています。
それを可能にするのが、いつまでも成長する「脳」です。
よく“人間は一生のうち、脳が持つ潜在能力の数%しか使っていない”といいます。
それを目覚めさせるものは、脳にとって新鮮な刺激です。
中高年にもなると、過去の記憶(経験)にとらわれがちで
、知りたい欲求なども低下しやすくなります。
新鮮な刺激を与えるためには、時に、まるで知らないような気持ちで
向き合うことも効果的。
日々のちょっとした挑戦の積み重ねによって、休眠中の脳が動きだし、
人生がもっと楽しくなる体験を味わってみてください。
■プロフィル
かとう・としのり 1961年、新潟県生まれ。昭和大学医学部・同大大学院を卒業。現・国立精神・神経医療研究センター、米国ミネソタ大学放射線科MR研究センター、東京大学、慶応大学等での勤務・研究を経て、現在、株式会社「脳の学校」代表。加藤プラチナクリニック院長。脳のMRI画像診断の第一人者として活躍。著書多数。