女性の尿漏れ
適切な治療で改善可能
女性の4人に1人が悩んでいるといわれる尿漏れ(尿失禁)。「恥ずかしい」「年齢のせいだから」などを理由に、診療を受けない方も多いようです。今回は、そうした「尿失禁」について、日本女性骨盤底医学会会員で、日本泌尿器科学会の専門医・指導医でもある高山病院(福岡県筑紫野市)の中島のぶよ医師のお話です。
2つのタイプに大別
「尿失禁」は、大きく二つのタイプに分けることができます。
一つが「切迫性尿失禁」で、もう一つが「腹圧性尿失禁」です。
「切迫性尿失禁」は、急に強い尿意を感じ、がまんができずに起きる尿漏れです。
冷たい水に触れたりすることで症状がでることもあるようです。
通常、膀胱は、尿の量が150㏄程度になると、軽い尿意(初発尿意)を感じ始めますが、
300~400㏄で強い尿意(最大尿意)が生じるまで尿意をがまんすることができます。
「切迫性尿失禁」の方の中には、初発尿意が150㏄より早く生じ、
あっという間に最大尿意に達してしまう人もいます。
症状がみられると、多くは「過活動膀胱」と診断されます。
80歳以上の方は3人に1人に、過活動膀胱の症状があるといわれています。
一方、「腹圧性尿失禁」は、重い物を持ったり、スポーツをしたり、
咳やくしゃみをするなど、おなかに力が入った時に尿が漏れてしまいます。
症状が進むと、普通に歩行するだけで漏れてしまうこともあります。
骨盤底筋が緩むことによって起きる病気で、特に経産婦に多く、
女性ホルモンの影響もあります。
以下では、それぞれの原因や治療法を紹介します。
切迫性尿失禁
先ほども述べた通り、「切迫性尿失禁」の原因の多くは「過活動膀胱」です。
加齢によるものや、原因が分からない特発性が大半です。
治療では、まず薬物療法を行います。
これには、膀胱が収縮する働きを抑える「抗コリン薬」が用いられます。
口内乾燥や便秘、排尿障害などの副作用がみられる場合、
膀胱を弛緩させる働きのある「β3アドレナリン受容体刺激薬」が使われることもあります。
と同時に、大半の場合は行動療法を併用します。
特に「過活動膀胱」では、尿意を感じても、膀胱内には尿がたまっていません。
尿意を感じるたびにトイレに行っていると、かえって膀胱自体が
縮んでしまうことがあり、症状を悪化させかねません。
そこで、尿意を感じてもがまんして、膀胱に尿をためる量を増やし、
排尿間隔を広げる「膀胱訓練」を行います。
よく、排尿をがまんすると「膀胱炎」になると誤解している人が多いのですが、
「膀胱炎」の大半は、尿道から細菌が入って起きる病気です。
「膀胱訓練」で膀胱炎になることはありませんので、安心してください。
「薬物治療」で効果がなかった場合、「磁気刺激療法」を行うことがあります。
この治療法では、磁気によって骨盤底領域に電流(渦電流)を発生させ、
症状の改善をはかります。
着衣のまま、座っているだけでよく、1回の治療は30分程度です。
副作用もありませんので、服薬量の多い高齢者の治療では
大きなメリットがあると思われます。
恥ずかしがらずに専門医を受診
腹圧性尿失禁
女性は、妊娠や出産、あるいは加齢による女性ホルモンの減少などによって、
骨盤底筋が緩んでしまいます。
そうすると尿道の締まりが悪くなり、この状態で腹圧がかかると、
尿が漏れやすくなります。 これを「腹圧性尿失禁」といいます。
この病気は、「骨盤底筋訓練」という行動療法で改善が期待できます。
あおむけになって膝を曲げた姿勢で、肛門を5~10秒ほど引き締めます。
これを20~30回、繰り返した後、次に早く締めたり緩めたりを同じように20~30回、
繰り返します。毎日数回、3カ月程度を目安に続けてください。
薬物療法では、「β2アドレナリン受容体刺激薬」を用い、尿道を締める力を強めます。
行動療法と薬物療法の併用で、8割近くの人が症状を改善することができるでしょう。
また、便秘や肥満の解消は、骨盤底筋の負担を和らげることにつながります。
咳やくしゃみで尿漏れがある方は、そうした症状の解消も同時に行った方がよいでしょう。
薬の効果がなかった場合や重症の方は、手術を検討します。
ポリプロピレンのメッシュ状テープで尿道を支える「TVT手術」「TOT手術」が
主流となっています。
体内に異物を入れることに抵抗感がある人は、
自身の腹直筋筋膜を使う「筋膜スリング手術」を選択します。
他の疾患のことも
「尿失禁」は、命に関わらない疾患ですが、しかしなかには、尿漏れの原因が、
「膀胱結石」や「膀胱がん」、あるいは「脳血管障害」のこともありますので、
一度、しっかりと受診し、他の疾患の可能性を排除することも大切です。
「尿漏れ」が気になって、映画やコンサート鑑賞、遠距離の移動など、
外出をためらう人も多いようです。
しかし、きちんと治療をすれば、症状を改善することができ、
生活の質(QOL)は高くなります。
女性だから、高齢だからと諦めることなく、早期に専門医を受診することをお勧めします。