血液中の脂質が増加
健康診断などで「コレステロール」や「トリグリセライド(中性脂肪)」
の値が高いと言われたことがある人も多いのではないでしょうか。
厚生労働省の調査では、血液中の脂質が多い「脂質異常症」は、
潜在患者も含めると全国に2200万人もいるといわれています。
今回は、「脂質異常症」について、日本臨床栄養学会、及び、
日本肥満症治療学会の理事長で、「みはま香取クリニック」(千葉県香取市)の
院長である白井厚治さん(医学博士)のお話です。
「動脈硬化」の危険因子の一つ
血管壁にコレステロールがたまると、血液の通り道が狭くなったり、
硬化する「動脈硬化」が起こります。
これを、そのまま放置しておけば「心筋梗塞」や「脳梗塞」
につながることもある怖い病気です。
この「動脈硬化」の重要な危険因子の一つが「脂質異常症」です。
「脂質異常症」には、
①LDL(悪玉)コレステロールが多い「高LDLコレステロール血症」
②トリグリセライドが多い「高トリグリセライド血症」
③両方とも多い――の3タイプに分けることができます。
トリグリセライドが多いと、HDL(善玉)コレステロールが低くなることが多く、
その場合「低HDLコレステロール血症」を呈します。
トリグリセライドが500㎎/dlを超えるような高度な「高トリグリセライド血症」の場合、
油ものをたくさん食べた食後や飲酒後に、激しい腹痛を起こすことがあります。
これは急性膵炎発作の疑いがあります。すぐに医師の診察を受けてください。
自覚症状のないことが多い
血液中に脂質が増えても、それだけでは症状は出ず、全く自覚症状もありません。
「脂質異常症」は血液検査でしか検出できません。
定期的な健康診断を積極的に受けるように心掛けましょう。
中には特定疾患に指定されている「家族性高コレステロール血症」のように、
遺伝でコレステロールが生まれつき高い人もいます。
この場合、比較的、若いうちから動脈硬化が進行しますので、
早期発見、早期治療が大切です。
この病気の主な原因は「脂質や糖質」の過剰摂取にあります。
従って、肥満を伴うメタボリックシンドロームや糖尿病、高血圧の人などは、
「脂質異常症」への注意が必要です。
ただ、体質的に血清脂質が高い人もおり、
自分は太っていないから大丈夫とはなりません。
バランスの良い食事や運動を
基本は食事療法で
この病気の基本となる治療法は「食事療法」です。
そして、肥満のある場合は、まず減量からです。
これまでの私の臨床の経験からすると、体重が1㎏減ると、コレステロールは、
だいたい20~30㎎/dl、トリグリセライドは、50~100㎎/dl下がります。
減量するためには、糖質と脂肪の摂取をできるだけ減らすことが大切ですが、
骨格や筋肉、各種代謝を維持するため、タンパク質、ミネラル、
ビタミンを必要十分摂取する必要があります。
全てを減らすのではなく、体組成にあった「栄養バランスの良い食事」を取ることです。
「肉類は一切食べない」、「卵、牛乳はとらない」などは、誤った考えです。
一般に、LDLコレステロールが高い人は、
コレステロール成分の過剰摂取を控えるとともに「脂肪」を控えること、
また、トリグリセライドが高い人は「糖質」を減らすことが大切です。
またお酒の飲み過ぎには注意しましょう。
食事だけでなく、ウオーキングなどの有酸素運動とスクワットなどの
筋力トレーニングを組み合わせた適度な「運動療法」で、
適正体重であるBMI(体重〈㎏〉を身長〈m〉で2回割る)=22㎏/㎡を目指しましょう。
薬物による治療
3~4カ月間の食事・運動療法によっても脂質異常が改善しない場合、
薬物療法を行います。
「高LDLコレステロール血症」の際に処方されるのは、
コレステロール合成を阻害するスタチン系の薬、吸収を阻害するエゼチミブ、
コレステロール吸着剤であるコレスチミドがあります。
「高トリグリセライド血症」の際は、フィブラート系の薬が処方されます。
これらの薬剤の服用目的は、動脈硬化進展予防です。
同じ脂質異常でも、人によって動脈硬化のなりやすさに違いがあります。
また、すでに動脈硬化が進行している人の場合は、
LDLコレステロール低下目標をより低くする必要があります。
今現在、どのくらい動脈硬化が進んでいるかについては、
簡単な方法では、頸動脈硬化は超音波法で検査できます。
また、動脈硬化度を反映する動脈弾性は、心臓足首血管指数(CAVI)などがあり、
それらの検査を参考にしながら、コレステロールをコントロールする必要があります。
ただし、薬だけに頼ることなく、生活習慣を改善する食事・運動療法が基本になります。
◇
「脂質異常症」の治療は、コレステロール、トリグリセライド値を
目標まで下げることですが、促進要因である肥満、糖尿病コントロール
及びアルコール摂取を含め、総合的な対策をとることです。
「精神的ストレス」が血管を痛めつけることも分かっています。
上手にストレスに対処しましょう。
最近、多くの一般診療機関で、動脈硬化度を頸動脈エコーなどで
簡単に調べることができます。
それらも参考に、脂質異常対策を立て、健康寿命を延ばしましょう。